こんにちは、接遇アドバイザーの辻野です。
前回は、組織を内側から強くする「心理的資本(PsyCap)」の全体像についてお話ししました。
自信、希望、楽観性、レジリエンス。これらは生まれつきの才能ではなく、トレーニングで鍛えられる「心の筋肉」です。
今回からは、この4つの要素を一つずつ深掘りしていきます。
第2回のテーマは「希望(Hope)」です。
「希望」というと、「将来はこうなりたいなぁ」という漠然とした夢をイメージしませんか?
実はビジネスにおける「希望」は、もっと泥臭くて、現場のスタッフが「自ら動く」ために欠かせない目標達成のエンジンなのです。
今日は、あるスタッフの方との出会いを通じて、この「希望」の大切さについてお話ししたいと思います。
テキパキこなすけれど、どこか「機械的」なスタッフ
私は研修を行う前、現状把握のためにクライアント様の店舗や現場へ視察に伺うことがあります。
以前、ある現場でとても印象に残ったスタッフの方がいました。
彼女の動きは、本当に無駄がなくテキパキとしていました。
オーダーの処理、商品の補充、同僚への指示出し。どこからどう見ても「仕事が早い人」です。
でも、私は少し違和感を覚えました。
表情が、どこか「機械的」だったのです。
業務は完璧にこなしているけれど、お客様を見ているようで見ていない。
まるで「タスクを消化すること」だけが目的になっているような、そんな印象を受けました。
「能力は高いのに、何かが噛み合っていない気がする…」
私はそんなもどかしさを感じました。
「やりたいこと」の棚卸しで見えたもの
後日、研修の場でのことです。
グループワークの中で、彼女と話す機会がありました。
「普段の仕事で、どんなことを感じていますか?」
私がそう尋ねると、彼女は少し考え込んでから、ぽつりとこう言いました。
「やるべきことはやっています。でも…この仕事を通して自分がどうなりたいのか、よく分からないんです。正直、目標とかも特になくて」
彼女にはスキル(能力)は十分にありました。
でも、「どこへ向かえばいいか(目標)」と、「そのためにどう動けばいいか(経路)」が見えていなかったのです。
だからこそ、ただ目の前の業務を淡々とこなすしかなかったのでしょう。
そこで私は、彼女と一緒に「現状の棚卸し」をすることにしました。
今、自分ができていることは何か?
お店の中で貢献できていると感じる瞬間は?
過去にお客様に喜ばれて嬉しかったことは?
最初は「特にありません」と言っていた彼女ですが、一つひとつ丁寧に掘り下げていくうちに、少しずつ言葉が出てくるようになりました。
「私、新人さんに教えるのは嫌いじゃないかもしれません」
「あのお客様が名前を呼んでくれた時は、嬉しかったです」
そうして自分の「できること」や「貢献ポイント」が可視化されたとき、彼女の表情がふっと緩みました。
「あ、私にも目指せる道があったんだ」
そう気づいた瞬間、彼女の瞳に人間らしい温かみが戻ったのを、今でも鮮明に覚えています。
心理的資本における「Hope」とは?
このエピソードは、まさに心理的資本の「希望(Hope)」が点火した瞬間です。
学術的な定義において、希望とは単なる「願望」ではありません。
以下の2つが揃って初めて「希望」と呼びます。
Will(意志の力): 「こうなりたい!」「やり遂げたい!」というエネルギー
Way(経路の力): 「こうすればできる!」「この方法で役に立てる!」という具体的な道筋
あのスタッフの方には、スキルはあっても「Way(道筋)」が見えていませんでした。道が見えないから「Will(やる気)」も行き場を失い、ただ機械的に動くしかなかったのです。
「棚卸し」によって「こうすれば貢献できる(Way)」が見つかったとき、人は初めて「やらされる仕事」から「やりたい仕事」へとシフトします。
希望は「見つける」もの
御社の社員は、「道(Way)」が見えていますか?
ただ「頑張れ(Willを出せ)」と精神論を言うだけでは、人は動きません。また、マニュアル通りに動くだけでも、お客様の心は動きません。
一緒に「道」を探し、見つけてあげること。
それが「希望(Hope)」を育むということであり、リーダーや私たち研修講師の大切な役割だと考えています。
R-stageの研修では、ただマナーの型を教えるだけでなく、こうした「心の棚卸し」を通じて、社員一人ひとりの「希望」を引き出し、主体的な行動へ繋げるアプローチを行っています。
次回は、そうして見つけた希望を、確固たる行動に変える力「自信(セルフ・エフィカシー)」についてお話しします。
